かつて2ch で、

「僕の肛門が大変です」とかいふ文字通りの糞スレが立つたことがある。そんなことを思ひ出す皇紀2664年の夏。
何故そんな下らぬことを思ひ出したかといへば、賢明なる読者諸兄姉には既におわかりであらう。さう、私の肛門が大変なことになつてゐるからだ。この痛みに比べれば、「イタい人」とみられるくらゐ屁でもない。といふか、放屁しただけでも痛い。
定時に職場を出て通院が可能な病院を見つけたので仕事を手早く片付けて一目散に向かふ。実のところ昨日のうちに見つけてゐたのだが、あらうことか「レディースデー」といふことで行けなかつた。…やはり私の終生の敵はフェミニズムであることを確信。
秋葉原の目的地についた。「このヲタが」とかいふな。本当に行けるところがそこしかなかつたのだ。
問診票を記入し、診察を待つ。その間、「ご自由にお取りください」と書かれた小さな籠の中の飴を取つて舐め、「お尻に優しい料理」なる小冊子を手に取り眺める。この痛みの中でも甘味はあるが、小冊子の方はまつたく頭に入らぬことに気付く。
カルテを渡され二階へ。しばらく待つた後診察室に入る。問診もそこそこに早速診察。ズボンとパンツを膝まで下ろして横になる。ひどく汗をかいてゐた私を見かね、看護婦さんがタオルをくれた。
で、当然触診になるわけだが、正直私はこの期に及んでゐても事態を舐めてゐた。まあいつものことだが。
…激痛だつたよ。
これほど痛い思ひをしたのは久しぶりだ。アナルセックスやら前立腺マッサージが良いといふ人たちとは相容れさうにない。
触診の後、エコー検査を受け、膿が溜まつてゐるとの診断結果と、それに対する私の意向を聞かれる。今夜は我慢して明日西新井の本院で下半身麻酔をした上での処置にすれば、全く痛くないが一泊することになる、または今すぐここで処置すれば「少し痛い」が処置後すぐに帰れる、どちらがいいと。
正直一泊の方に心が動いた。肛門科の病室からこの日記を書くのも一興かと思つたし、何より無痛といふのは抗しがたい魅力がある。だが、このまま一夜を過ごしたらさらに私の肛門がえらいことになると思つたのですぐに処置してもらふことにした。私の被害妄想だらうが、私の回答を聞いた医師は後悔するよといひたげな口調だつたが、何、既に後悔してゐる。やる前から後悔するのもいつもの話だ。
またも指だか器具だかを突つ込まれる。汗を拭くために渡されたタオルは、苦痛の声を漏らさぬために噛み締めることにした。三十近い男の悲鳴など聞きたくもなからうし、聞かせたくもない。
何とも形容しがたい痛みの中、鋭い痛みが走る。麻酔注射のやうだ。…おいまさか、穴の中に注射してないか? すぐまた穴の中をかき回され、余りの痛みに千切れんばかりにタオルを噛む。
吸ひ取つたらしい膿が付いたガーゼを見せられる。近眼なのでただの血にしか見えなかつたのが少し残念。
今度は「痛かつたらいへ」と言はれる。さつきからずつと痛いんですけど、まだ痛くする気ですか。…うん、確かに痛い。といふより熱いんですけど。一体何してるんだ私の尻に。
外科的処置が終はり、座薬を入れられた後、ガーゼを当てられる。ズボンを上げベッドを降り、再び医師の説明を聞く。何でも肛門のところに液体を分泌する腺があるが、そこは窪んでゐるため、雑菌にやられるとかうなると、エコー写真を見せられる。確かに何か黒い穴みたいのが見える。そこが膿んでゐたところらしい。
処方箋を渡され薬局で薬を貰つた。飲酒は控へるやうにとのことなので、けふ行く予定だつた新宿二丁目の店にメールを入れ、秋葉原に来たからにはと、「イエスタデイをうたって 4」(冬目景画、集英社刊、ISBN:4088766466)を買つて帰る。ヌルく、どこか切ないこの物語は結構好きだ。