刑事弁護のあり方について。

先日宮崎学氏が「緊急!「人権派弁護士」批判に答える。」なるイベントを開いたさうな。
http://d.hatena.ne.jp/kwkt/20060513#p1
興味深い部分はこちら。残りは正直かなりどうでもいい。


 その後、4月18日に口頭弁論が最高裁で開かれたようですが、それまでの間安田氏が何をしていたかも魚住氏から説明がありました。

  • 安田氏は広島の被告人に8回接見。
    • 最高裁の記録数千枚をデジカメに記録し精査。
    • 一審・二審で認定されていた被告人が殺意をもって冷酷非道な犯行をしたという事実が根底から覆るような事実が明らかになってきたとのこと。

「被告人が殺意をもって冷酷非道な犯行をしたという事実が根底から覆るような事実」つて…

かうですか? わかりません! ><
さて。如何なる鬼畜外道であらうと、我が国で刑事裁判を受ける以上は弁護人がついて己の法的権利を刑訴法やら何やらの諸々の法律上の範囲内で可能な限り主張できることはいふまでもない。傍から見て弁解の余地があらうとなからうと、彼のその権利は確かに守られるべきである。その意味に限定するならば、本件の弁護を受任した安田弁護士は批判されるべきでは絶対にない。
刑事裁判においては検察被告双方の主張に基づいて裁判官が事実を認定し、判決を下す。ところでこの「事実」だが、これは実際の事実を指すといふよりは、法廷での双方の主張をベースに裁判官が「その時かういふ事が起こつたと合理的にみて納得できる筋書き」といふ方が近い。タイムマシンがあるわけでもなし、そんなことは当たり前ではないかといふ向きもあるから例へ話で説明しようか。
私がある人間を殺害したとする。で、殺害するからにはそれなりの理由があるわけだが*1、その理由がかういふものだつたらどうだらう。

  • 天にまします我らの神が䖝犀淨庵に命令したから
  • ミネソタ州在住のスティーブさん(48)が毒電波で䖝犀淨庵を操つたから
  • 䖝犀淨庵は実は未来視ができる超能力者で、被害者がこのまま生きてゐると後に毛沢東ヒトラーが裸足で逃げ出すやうな政治家になる未来を見てしまひ、彼の手から人類を守らうとしたから

…何か自分で書いてゐて虚しくなつてきたが、とにかくかういふ類の理由だつたとしよう。そしてそれが紛ふことなき真実だつたとしよう。無論それを証明する手段など現在のところどこにもないので、この主張が通ると思ふ人はさうはゐまい。かういふことを主張した場合、私は一種の精神異常者かまたはそれを装ひ刑事責任を逃れようとしてゐるといふのが裁判所で認定される「事実」になるだらう。
といふわけで私は上の画像にあるやうな、引用するのもおぞましい安田弁護士の主張については首を傾げざるを得ない。被告人がさう主張してゐたとして、そして被告人の主観的世界ではそれが「事実」だとして、それが裁判所で認められるかどうかについて甚だ疑問だからだ。単純に被告人の減刑を狙ふなら、被告人の生育環境等について述べて情状酌量を求めるか、または人権派の常套手段である責任能力の否定を法廷戦術にすべきだつたと私は思ふのだが。いやさうしないでくれたのはまことに有難いのだけれど。
何か安田弁護士には思惑があるのだらうか。死刑廃止論のための話題づくりだつたら被害者やその遺族どころか被告人まで蔑ろにする暴挙だが流石にそれはなからうし。はて。
日弁連の元副会長がグダグダ抜かしてゐるのは一瞥にも値しない。刑事弁護人が叩かれるのは被告人といふ「悪玉」の味方をしてゐるからだといふ見方は皮相的にすぎる。それも事実の一定の割合を占めてゐるだらうが、法曹以外の人々はさういふことだけではなく、被告人の情状を良くしようとする余りいたづらに被害者を貶めたり、何でも精神異常にかこつけて責任能力はないと喋々する弁護士のその手法が「陋劣に過ぎる」と憤つてゐるのではないか。単純な二項対立に落とし込み一般の人々を愚民視するその口吻には呆れるほかない。これでは当分刑事弁護人叩きは続くだらう。彼らは自業自得であるが、彼らに一々憤る世の中の善男善女が気の毒である。ついでにこんな連中に弁護される被告人たちも。
さういへば、日弁連の元副会長にはこんな人もゐるね。
http://kaz1910032-hp.hp.infoseek.co.jp/121014.html

*1:通り魔殺人でも理由はある。単に我々が「理由にならない」と切り捨ててゐるだけで。