「士の心」とかいて「志」。

「朝起」を辞し、駅まで歩く。当初はZガンダムのレイトショーを観に行くつもりだつたが、思ひのほか時を過ごし時間に間に合はなかつたためだ。
百貨店の入つた駅ビルの前の円柱の前に女性がゐる。それだけなら別に珍しくもないが、首から何か下げてゐる。
「私の志集
三〇〇円」
…うわあ。
周囲の人々は彼女が目にはいらぬかの如く流れて行く。生憎目に入つた私は立ち止まつてしまつた。しかしいきなり声を掛けて志集を購入するほどアグレッシヴな質だつた覚えはないので、メールを打つ振りをして電池の切れた携帯を弄びつつ彼女をヲチする。
やはり誰も志集とやらを購入する様子はない。さういへばどこかのブログで、同じく駅前で詩集を売る女性に迂闊に声を掛けた勇者が「何故貴方はこれを買ひたいのですか?」と絡まれたといふ話を聞いた。だつたら売るなよ。
この女性がその話の女性かは知らない。だが喧嘩を売られたら売られたでそれもまた良しと、声を掛けてみた。あつさり「志集 第三十四号」とやら売つて貰つた。拍子抜けした。お釣りが出ないやう小銭を用意したのが良かつたのかもしれない。
にしてもなかなか勇気の要る体験だつた。見知らぬ女性に声を掛けられる連中は、羞恥心のない露出狂か穴があればとりあへず突つ込みたいケダモノに違ひない。私には荷が重すぎる。