本日の調達品。

修羅の棲む家―作家は直木賞を受賞してからさらに酷く妻を殴りだした

修羅の棲む家―作家は直木賞を受賞してからさらに酷く妻を殴りだした

まだ三分の一ほどしか読んでゐないが少々期待外れ。単なるDV夫とそれに魅入られた(共依存つていふんだつけか)の妻の話。
興味深い箇所を二点引用したい。まづはマス(井上ひさしの母、共産党員)が井上ひさし宅(妻の父母同居)に上京してきたときの話。

 マスは母親だけあって、ひさしの心の動きをよく見抜いていた。年一度の上京が叶うようになると、時間を自分にくれるようにと必ずひさしに要求した。
「何しろ偉い先生様になったのだから、いくら母親といっても制限なく時間をいただけるとは思いませんからね」
 マスはひさしを相手に対等に議論することで、この家でのひさしの位置づけをはかろうとした。家族みんなが集まる食卓で、国家世界を大上段に振りかぶって論じ合う。あれほど食事中は静かにと息巻いていたひさしだが、マスのいる時は延々とやり始めるのだ。
 好子はこれを「公開議論」といって茶化すのだが、マスとひさしの会話は内山家の人々に向けられたマスたちの「議論武装」と受け取れなくもない。
「あれかね、ひさし先生、天皇制はいつまで続くかしらね」
天皇の暗殺がない限り、この国はまず正常にはなりませんよ」
「ああ、それはもっともだ」
 マスは共産党支部長をしていて、なかなかの理論家である。
 こんなとき、東太郎*1はだまって聞いている。東太郎が皇室のファンであることを知っていながら、二人の話は天皇を拝み立てる一般大衆の愚鈍さに及び、知識をひけらかしたがる。
「ところで、浅草のお母さんは菅野スガをご存じですか」
「はあ? どちらの菅野さんですか」
「あの菅野スガですよ」
「どちらにお住まいの」
不敬罪のです」
「さあ、存じませんね」
「いえね、日本には偉い人がいたのですよ」
 マスは、大逆事件を得意になって話し続け、やがて「公開議論」の締め括りの言葉として決まってこうつけ加えた。
「あなたたちは本当に幸せですよ。何といってもひさし先生がいて、タダでお話を聞かせてもらえるのですからねえ。こんな贅沢な家の中でおいしいものを食べて、その上に話までねえ……」
 そして誰かが「本当にそうですね」と相づちを打つまで、マスは同じことを繰り返し話した。あんまり言われると誰もが無言になる。
「母さんがいくらいったって、うちの者には感謝の気持ちというのがないんですよ」
「そんなことはありませんでしょう。それに先生を養子になど出した覚えはありませんよ、私は。先生の身体の中にはお父さんと私の血が流れているのですから。
 どうであれ、籍を早く戻してもらわないことには、世間様に顔向けができません。ひさし先生はね、いまや日本の井上ひさしなんですから。そのことを家の者はわからなくては。好子もね、女の腹は借り物って昔からいうでしょう。自分のご亭主の値打ちに平伏さなくてはダメですよ」
 マスはこれをいいたくて上京してくるのである。
 最初、好子とひさしが一緒になるとき、彼は東京にもってきた故郷からの移動証明を失くしていた。おまけにそれを証明する米穀通帳も紛失していた。つまり戸籍上は一旦、上京してきたまま、どこにいるか証明できない「ゆうれい人口」の一人となっていたのだ。
 結婚後、籍の問題が話題になった時、その解決には直接好子の席に入籍することが一番簡単だったのである。
 養子という話になった。
 米ぬか三合もったら養子にいくなというのは北国の風習として根強い。一番根強い山形から、こうしてひさしは好子の籍に養子に入った。
「いいじゃないの、籍なるものは天皇の臣下になるという約束でくだらない。大杉栄伊藤野枝をごらんなさい。無国籍を堂々と提唱したではありませんか。わたしはけして反対はしませんよ。むしろ嬉しいと感じています。」
 その時、姑のマスはそういったはずである。無論その約束はあとで大変なこととなり、争点は養子問題に大きく発展することになるのだが、それはひさしが有名になった後の話である。
 しかし籍などどうでもいいと思っているのは実は東太郎で、かといってそれではとあっさり受け入れれば、それがもとでまた一騒動あると了見していた。だから無言でいる。それも気に入らない。
「お父さん、うちだって五百年も続いた家ですよ」
たまりかねた日出*2が口を出す。
「そりや続くでしょう。下町の職人なんて色好みで色々途中に雑種が入ってくるんですよ。継続は力なりってね。どこの馬の骨かわからないで続くなんていうのは下の下、馬にもおとるっていう家系はあるんです。別にお宅さまがそうだとはいっていないのですがね」
 マスは能弁で、日出などには到底歯がたたない。
「ああ、また先生に貴重な時間を使わせてしまいました。講演会なら何十万も払わされますよ」
 これがマスのひさしとおこなう「儀式」であり、息子への愛情だった。
親も親なら子も子だといふのはよくある話で。

文明が生み出した最も悪しきもの「ババア」((c)石原慎太郎

殺人マットを生み出した新庄市を擁する日本屈指の田舎「山形」

共産党

おk、みんなで楢山節を唄ふんだ

といふ理解でいいのだらうか。

*1:引用者註:本書の著者西舘好子の父

*2:引用者註:本書の著者西舘好子の母