今更だが応答。

先日の日記にid:kwkt氏からコメントを頂いた。


# kwkt 『はじめまして。kawakitaと申します。TBいただきありがとうございました。

とりあげていただいた「根底から覆るような事実」の件ですが、画像のテレビ番組のテロップで語られている被告の供述のことではなく、遺体の写真や鑑定書の解剖所見に基づいた法医学的なことなようです。貴エントリーで仰られているように、ある種のフィクションの要素が入ることが否めない捜査結果・被告の主観が反映されている可能性のある自供内容の話と言うよりも、それらの捜査結果・供述内容と法医学的・解剖学的な死体所見が一致しておらず、一審・二審で認定され世に報道された「事実」と実況見分調書などから発見された「事実」に大きな相違があるようです。

会場で資料として配布されたのですが、魚住昭氏が「FRIDAY」の2006.5.5号に寄稿された「安田弁護士「事件は検察の捏造!」の真相」という記事でその内容を読むことができます。その他の媒体でも書かれているかもしれません。図書館等で閲覧可能であればご覧になってみてください。

どのような経緯や解剖所見があったとしても事件の結果は変わりませんし、個人的にも被告に同情の余地はないと言っていいと思います。しかし選択された事実から構築された捜査結果・主観の入る可能性の否定できない供述内容・世に流通している報道内容と、法医学的・解剖学的な事件の痕跡が食い違っているとすれば見直しは検討に値すると思います。これは「被告に利する」とか「死刑廃止の思想が背後にある」などという観点からではなく、裁判の公正という観点から見ることが十分可能だと考えます。

ついでに申し上げますと、「何でも精神異常にかこつけて責任能力はないと喋々する弁護士のその手法」についてですが、日本では報道される重要案件のみ精神鑑定が実施されており、裁判の判決後に一般刑務所ではなく医療刑務所に送られる殺人事件の被告の8〜9割は審議過程において精神鑑定が行われないそうです。

「単純な二項対立に落とし込み一般の人々を愚民視」しているのはこの集会で発言された日弁連の元副会長に代表される弁護士たちでしょうか。私はこの集会で一般に報道されていること以上の情報に初めて触れましたが、そのような情報を流通させず/流通させたとしても得にくい状況になっていること、限定された報道情報だけで判断しその背景を考察しようとしない「残りは正直かなりどうでもいい。」という態度こそ問題ではないでしょうか。

まづ返事が遅れたことをお詫び申し上げます。いや、これだけ書かれたのに簡単な返答でお茶を濁すのは流石に悪いとなると、平日に返事を書くのは窓際族の私といへど無理がありまして。



しかし選択された事実から構築された捜査結果・主観の入る可能性の否定できない供述内容・世に流通している報道内容と、法医学的・解剖学的な事件の痕跡が食い違っているとすれば見直しは検討に値すると思います。これは「被告に利する」とか「死刑廃止の思想が背後にある」などという観点からではなく、裁判の公正という観点から見ることが十分可能だと考えます。
これは全くその通りです。刑事裁判で認定された「事実」が、裁判において提出された「証拠」から導出できないものであつてはなりません。



ついでに申し上げますと、「何でも精神異常にかこつけて責任能力はないと喋々する弁護士のその手法」についてですが、日本では報道される重要案件のみ精神鑑定が実施されており、裁判の判決後に一般刑務所ではなく医療刑務所に送られる殺人事件の被告の8〜9割は審議過程において精神鑑定が行われないそうです。
気になつたので犯罪白書を見てみることにしました。
http://www.moj.go.jp/HOUSO/2005/table.html#09
これによると平成16年度に検察で処理した殺人事件は1,616件、うち公判請求したのが869件、不起訴処分が起訴猶予その他併せて700件とあります。殺人件数の4割以上が起訴すらされてないのは改めて見ると驚きですね。起訴便宜主義で「勝てない」事件は起訴しないことくらゐは知つてゐたつもりですが、かうして見ると色々な意味で不愉快になりますね。「勝てる」ものしか裁判に持ち込まない「精密司法」は「裁判を受ける権利」の侵害ではないかと昔から思つてゐましたが。
我が国では前述の「精密司法」のおかげで刑事裁判になつたら大抵有罪になる影響か、「逮捕」の報道が出た時点で既に「犯罪者」と見られがちです。で、仮に不起訴処分になつても報道ではフォローされることは余りありません(有名事件なら別ですが)。「勝てない」と起訴しない検察が悪いのか、逮捕された時点で盛大に騒ぐマスゴミが悪いのか、そもそもかういふ現実を知らうともしない人々が悪いのか、いづれにしろ「無実」なのに逮捕された人には気の毒な現状であることは間違ひありません。
さて、殺人事件のうちそのうちの精神障碍のある犯罪者についてはこちらですね。
http://www.moj.go.jp/HOUSO/2005/hk1_2.html#2-5

(3)  精神障害のある犯罪者
   平成16年において,検察庁で不起訴処分になった被疑者のうち,心神喪失者と認められた者は324人,心神耗弱者と認められた者は237人,通常第一審で心神喪失を理由に無罪になった者は7人,心神耗弱を理由に刑を減軽された者は81人であった。これら649人のうち,措置入院は383人,実刑・身柄拘束は55人であった。
 心神喪失により不起訴処分になった者については,罪名は,殺人(74人)が最も多く,次いで,傷害(66人),放火(48人)の順であり,精神障害名は,統合失調症(234人)が最も多かった。また,不起訴処分になった者のうち心神耗弱者と認められた者については,罪名は,傷害(50人)が最も多く,精神障害名は,統合失調症(138人)が最も多かった。
 通常第一審で心神耗弱を理由に刑を減軽された者については,罪名は,殺人(21人)が最も多く,精神障害名は,統合失調症(24人)が最も多かった。
先程のデータと合はせると、不起訴処分700人のうち心神喪失が認められた者が74名、心神耗弱は数字が記載されてゐないのでわかりませんが、一番多い罪名が傷害の50人ですので、最大でも49人となります。不起訴処分のうち最大でも18%弱だけが精神障碍者といふわけです。残りの72%が気になりますね。
で、ここまで書いてゐてコメントの「裁判の判決後に一般刑務所ではなく医療刑務所に送られる殺人事件の被告の8〜9割は審議過程において精神鑑定が行われないそうです。」の回答になつてゐないことに気付きました。申し訳ありません。申し訳ないついでにソースを教へていただければ幸甚です。
もつとも、気違ひを理由に犯罪者を免責したがるのを弁護士の専売特許のやうに記述したのは明らかに公正を欠きますね。今にして思へば、検察がそもそも被疑者が気違ひだつたら起訴しないことにも触れてゐないのは我ながら片手落ちといふしかありません。これについては不明を恥ぢるばかりです。



「単純な二項対立に落とし込み一般の人々を愚民視」しているのはこの集会で発言された日弁連の元副会長に代表される弁護士たちでしょうか。
これについては貴ブログで「刑事弁護人の活動は被害者の感情を逆撫でするような面があり、善玉(被害者)と悪玉(加害者)の二項対立が煽られる。」とある通り、被害者感情を逆撫でするやうな弁護をしておいて悪玉になつた自分を嘆くやうでは一般の人々を愚民視してゐると評する他ありません。



そのような情報を流通させず/流通させたとしても得にくい状況になっていること、限定された報道情報だけで判断しその背景を考察しようとしない「残りは正直かなりどうでもいい。」という態度こそ問題ではないでしょうか。
ここは何か誤解があるやうなので補足説明しておきます。私が「残りは正直かなりどうでもいい。」と書いたのは、佐高信氏にしろ宮台真司氏にしろ、その他の方についても「この人ならかういふだらうな」といふ感想しか抱けなかつたので興味を持てなかつたためです。佐高氏や宮台氏辺りが「国家の光輝ある伝統を保守するのは国民の神聖な義務である」とか中川八洋氏ばりの発言をしてゐれば、それこそどうでもよくないので玩味熟読いたしますが。