嫡出推定が強力なのは子の福祉のため。

と、私は家族法の講義で教はつたわけだが。

DV原因で戸籍のない高1女子、旅券発給保留に 滋賀

http://www.asahi.com/national/update/0105/OSK200701040063.html


 母親が前夫の暴力(DV)で離婚できなかったために出生届が出せず、戸籍のない滋賀県内在住の高校1年の女子生徒(16)が4日、修学旅行で海外へ行くため県パスポートセンター(大津市におの浜1丁目)で旅券の発給を申請した。しかし、同センターは「戸籍抄本がない」として申請書類を保留にした。
さて。戸籍法にはかうある(http://www.houko.com/00/01/S22/224.HTM#s4.2)。
第49条 出生の届出は、14日以内(国外で出生があつたときは、3箇月以内)にこれをしなければならない。
で、この戸籍のない少女の母親は何をしてゐたのかといふと。

 女子生徒の母親は、前夫のDVから避難し、その時に助けてくれた男性との間に女子生徒が生まれた。翌年、裁判で離婚が成立したが、民法上、婚姻解消から300日以内に生まれた子は婚姻相手の子とみなされ、男性の姓で提出した出生届は受理されなかった。女子生徒の戸籍をつくるには前夫の協力が必要だが、母親は今も前夫の暴力におびえ、住所を知られたくない状況という。
この通り、前夫との離婚が法的に成立して一定期間を過ぎる前に別の男と子を生したわけだ。で、民法にはかうある(http://www.houko.com/00/01/M31/009.HTM#s4.3.1)。今回は面倒なのでいちいち引かないが、記事にある通りだとすると、離婚成立前に子が出生してゐるから法的には前夫の子とみなされる。それが嫌なら「前夫が」嫡出避妊の訴を子の出生を知つたときから一年以内にしろと言ふのが民法の建前。まあ何だ、かういふエントリ*1を見た後に読むと「これはひどい」と言ひたくなる規定である。一年間騙し通せる自信があれば間男の種仕込み放題ですぜ奥様といふわけだ。
もつともこれでは余りにもアレな事態が出てくることが明らかなので、実際には親子関係不存在確認の訴といふものもある。面倒なので説明はしないから各自ぐぐれ。
だがまあどちらの手段を取るにせよ、前夫を法廷に呼ばなければ話にならないわけだが、この母親が自分の住所を知られるのを嫌がつて今の夫との子なんだからそれで戸籍登録しるといふことらしい。
阿呆か。
で、末尾。

 支援団体「民法と戸籍を考える女たちの連絡会」(神戸市)は「修学旅行という自ら選択できない事情なのに、親の事情から海外渡航や人権を制限されるのは不当」とし、今後も受理を訴えるという。
このままでは修学旅行に行けないから合法的な手段によらず戸籍を寄越せ今すぐ寄越せさあ寄越せといふわけだ。スーパーで床に転がつて駄々をこねる餓鬼と大差ない。
サイトでもあれば晒し者にしてやらうと検索かけてみたらこんなものが。このプロ市民団体の構成員のサイトらしい。強調は引用者、つまり私である。
http://www.nagakinoriko.com/profile.html

いろんなこと闘いとってきたヨ

1986 ・出生届の窓口闘争

1987 ・民法と戸籍を考える女たちの連絡会(みこれん)を結成
   ・外国人登録指紋押捺拒否事件裁判支援

1988 ・兵庫県臨時職員不当解雇裁判支援

1990 ・戸籍にない子に住民票をつくらせた

1992 ・公立高校入試時の住民票記載事項証明書の提出を
    廃止にもちこむ

1994 ・ドキュメンタリー番組「戸籍が奪う幸せ」に出演

1995 ・住民票の続柄表示の差別記載撤廃
   ・被災宅地擁壁を公費で復旧させた
   ・「夫からの暴力とシェルタ−」の学習会をひらく
   ・外出できない車イス女性のために
    仮設住宅アスファルト舗装させた

1996 ・被災女性を支える会結成

1997 ・パ−ト労働者の働き方による
    不利益を改善させた
   ・「公的援助法」実現ネットワ−ク加入
1998 ・国会へ通い支援金制度を作らせる
   ・国民総背番号制導入(住基ネット)に反対する
    集会をひらく
   ・神戸空港住民投票条例制定の署名集め

1999 ・ひとり親家庭の電話相談
   ・戸籍にない女子高生のパスポ−ト取得闘争

2000 ・神戸市長リコ-ル署名集め
   ・団地の自治会長をつとめる

2001 ・民法における父親(嫡出)推定のアンケート調査
   ・米原子力巡洋艦ビンセンス入港に反対

2002 ・児童扶養手当削減に反対
   ・被災者自立支援金裁判に勝利し
    不平等な支援金制度を 改めさせた
   ・戸籍にない子に児童扶養手当を支給させた
   ・住民基本台帳ネツトワ−クを考える市民の会結成

前世紀から戸籍のない子にパスポート寄越せとか色々やつてゐたわけだ。今これがまた新聞記事になつたのも仕込みか何かだらうと邪推したくなるがそれはさておき。行政に寄越せもつと寄越せとやるのがメインの活動なのかといふこともそれはさておき。


いやしくも支援団体といふのなら、この子の「法律上の父親」と「生物学上の母親」の間に立つて、両者を説き伏せて合法的な解決を図るのが人の倫ではないですか? 法的な横車を十年近くも押すのではなく。

と誰も言はなかつたのかね? ああ突つ込まれる前に先にいつておくと、「そんなのはとつくにやつてゐる」といふのなら、そもそもこの団体には当該問題に関与する能力自体が欠如してゐると評せざるを得ない。
ああまう寝よう。こんな時間まで何書いてんだ私は。

*1:しかしここが取り上げたニュースの続報を見た記憶がないが結局どうなつたのだらう?