二度あることは三度あるし、莫迦は正直を言ひ訳にして何度でも騙される。だが来月の調達品。

今となつては昔のことだが、私は伝記作家である小島直記のエッセイを愛読してゐた。そのエッセイの中で、澤田謙の『少年プリューターク英雄伝』が挙げられることが幾度かあり、いつかは手に取つてみたいものだと思つてゐた。とはいへ昭和六年刊行の本であるから、古本屋を巡るときには少し意識して探してみる程度であつたのだが。
それから数年後、谷沢永一が澤田謙の遺族に許可を取り、『少年プリューターク英雄伝』を復刻するといふので私は喜んだ。早速手に入れ前書きを読むのももどかしく、本文の頁をめくつた私が失望したのは同書を手にした人ならわかつてくれるに違ひない。復刻とは大嘘もいいところで、口語体に直したどころではない(その上かなり出来の悪い)翻案にすぎなかつたからだ。それから私は谷沢永一に対して若干色眼鏡で見るやうになつたのもまあ、昔の話だ。彼も幽明境を異にして長いし水に流す…わけあるか。絶対に許さない。
で、話は今に戻る。粘着質な私は現在に至るまで折を見てはグーグル先生を活用して『少年プリューターク英雄伝』の原本を探してゐたが、書誌情報としてはともかく在庫情報はなかなか見つからなかつた。だが今日もあまり期待せずにグーグル先生にお伺ひを立てると講談社の出版予定に導いてくれた。

プリューターク英雄伝 (講談社文芸文庫)

プリューターク英雄伝 (講談社文芸文庫)

かなふならば旧字旧仮名遣ひ、文語体での完全復刻版を望みたい。だが、歴史と伝統を蔑することにおいてなかなかのものである本邦の出版社にそれを望むのことは酷であるだけではなくさう高望みする自らの愚かさをさらけ出すことに他ならない。それでも私は冀ふ。
私は来月にまた、失望を味はふ羽目になるのだらうか。